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一般社団法人でクリニック開設

2021.08.20
一般社団法人でクリニック開設

1.第三の開設方法 一般社団法人でクリニック開設とは

今までクリニックの開設方法といえば「個人」か「医療法人」の2択でした。

これに加え、近年、第三の開設方法として「一般社団法人」で開設するクリニックが登場しています。

その理由はどこにあるのか?
一般社団法人で開業するメリット・デメリットは?

詳しく解説していきます。

2.クリニックの開設方法3パターン比較

下記の図は、弊社のダウンロード資料「クリニック開業の秘訣」より抜粋した、クリニックの開設方法「個人での開設」「医療法人での開設」「一般社団法人での開設」3パターン別の比較です。

この図に添って一般社団法人での開設が選ばれる理由を解説していきます。

3.一般社団法人が選ばれる理由

① 最初から法人で経営できる

■ 家計と経営を分離して組織的な経営を行いたい、将来分院を出したい、仲間と一緒に経営したい・・・このような場合には経営母体(開設者)が「法人」であることが望ましいと言えます。

■ 経営母体(開設者)を法人とする方法には「医療法人」もありますが、医療法人の設立には都道府県による認可が必要です。

■ 一般社団法人であれば株式会社と同じく都道府県の認可は不要、「登記のみ」で設立が可能です

② スピード感の違いと経営効率の良さ

下記の図は、弊社のダウンロード資料「クリニック開業の秘訣」より抜粋した、開設方法別の必要手続き・スケジュールになります。

前述の通り、一般社団法人でのクリニック開設が選ばれる理由の一つは「法人で経営できる」という点にあるため、ここでは主に医療法人との比較で解説していきます。

A) スピード感の違い

医療法人の設立は前述の通り都道府県の認可が必要であり、その認可を受けるための申請は都道府県ごとに決められた時期にしか申請できない制約があります。
また、申請〜認可までは通常半年程度かかります。
これに対して一般社団法人は都道府県の認可が不要なため、いつでも設立することができ、かつ、申請~認可までの半年程度の期間が省略されることになります。
つまり、医療法人と一般社団法人の決定的な差は、「設立のタイミングが選べること」「医療法人であれば必要なこの半年の期間が短縮できる」ことにあります。

B) 経営効率の良さ

医療法人の申請では申請時点でクリニックの賃貸借契約が締結されていることが条件になります。
前述の通り、申請~認可までは半年程度かかるため、その間長期間収入がない状態で家賃負担が生じることになります。
一般社団法人であればこの半年が短縮されるため、法人を設立し賃貸借契約のほか開業準備が整った時点で保健所の開設手続きが可能なため、支出負担のみの期間も同様に短縮できます。
医療法人の場合、個人から法人に引き継げる借入金は設備資金に限定されますが、一般社団法人の場合はこの制限がないため運転資金の引継も理論上は可能です。

C) 法人としての使い勝手

医療法人は法人で運営できる事業が医療とその付帯業務に限定され、開設するクリニックを廃止する場合は基本解散になり、解散の場合も都道府県の認可が必要になります。
一方、一般社団法人の場合は開設するクリニックを廃止しても解散する必要は基本なく、解散の場合も都道府県の認可は不要です。
そのためクリニック廃止後は定款の目的からクリニックに関するものは削除し、新たに医療以外の事業を追加して、医療で得た収益を元手に別の事業を行う法人としての活用が可能です。

D) 代表者の自由度

医療法人の代表者は「医師または歯科医師」に限定されます。
それに対して、一般社団法人にはその要件がないため、医師歯科医師以外が代表者になることが可能です(医療法人の代表者変更は都道府県への届出が必要であるが、一般社団法人は不要)。
ただし、法律上要件ではありませんが、あくまでも一般社団法人でクリニックを開設している間は医師又は歯科医師が代表であるべきだとは思います。
これは現在の医療法人の多くを占める「ひとり医師医療法人」において代表者が突然死亡し後継者がいない場合、医療法人での選択肢は解散か、都道府県の認可を受けて医師歯科医師以外の配偶者等が一時的に代表者となり運営を続けるか、になります。
それまで医療法人の役員として法人運営に携わっていたとしても、医師歯科医師以外が医療法人の運営を行うことは非常に困難であることが想像できます。
この場合、一般社団法人であれば代表者を医師歯科医師以外にスムーズに変更することが可能であり、クリニック以外の事業を行うことも可能であるため、残された家族の選択肢も多くなります

4.一般社団法人のデメリット

A) 前例が少ない

近年増加傾向にあるものの、全体においてはまだ開設実績が少なく、管轄保健所によっては前例がないため審査に時間がかかる場合があります。
この場合、せっかく申請~認可までの半年程度の期間が省略されても、保健所の審査で同程度の審査期間を要するようであればスピード感のメリットが生かされません。
医療法人は都道府県の認可が下りれば保健所がクリニックの開設を拒むことは基本的にはありませんが、一般社団法人の場合は管轄保健所によって個人での開業実績がないと認めない場合などがあり、開業場所によってはそもそも最初からの法人開設ができないことがあります。
また、開業時に融資を受けたい場合や個人から一般社団法人になる際の借入金の引き継ぎにおいて、金融機関やその融資を支援する会計事務所が一般社団法人でのクリニック開設の理解に乏しい場合、融資のハードルがあがる可能性が高いです。

B) 法改正によって規制がかかる可能性

現在のルールが法改正によって変更になったり、規制がかかる可能性があります。

5.クリニックが開設できる一般社団法人のポイント

一般社団法人でクリニックを開設するには、その一般社団法人が「非営利型の法人」であることが要件となります。

<非営利型の要件>

① 定款に剰余金の分配を行わない旨の定めがあること(株式会社との違いは剰余金の分配ができないことにある)。

② 定款に、解散したときはその残余財産が国若しくは地方公共団体等に帰属する旨の定めがあること。

③ ①及び②の定款の定めに反する行為(①、②及び④に掲げる要件のすべてに該当していた期間において、剰余金の分配又は残余財産の分配若しくは引き渡し以外の方法により特定の個人又は団体に特別の利益を与えることを含む)を行うことを決定し、又は行ったことがないこと。

④ 各理事について、当該理事及び当該理事と特殊の関係のある者である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。

基本的には医療法人に準ずるため、①と②は医療法人と同じです。
ただし、これはクリニックを開設する場合における要件であり、前述の通りクリニックを廃止した場合には非営利型の法人であることは要求されないため、残余財産の帰属先は社員総会等で決定できる等に定款変更することも可能です。

次に、③については、医療法人でいう利益相反行為や関係事業者との取引の規制と同様であり、税務上も同様の規制はあるため、医療法人や一般社団法人の運営に詳しい会計事務所の指導に従って運営していれば、ある程度自然に回避されるともいえます。

さらに、④については理事会設置法人が基本であるため、医療法人同様に理事3名以上、監事1名以上が必要になります。
医療法人の場合、この理事3名は全員親族が可能であるのに対し、一般社団法人は親族等の特殊関係者が3分の1以下である必要があるため、最低人数の3名である場合、代表者の医師以外の2名は親族等以外である必要があります。
したがって、全くの利害関係のない他人2名を選任する必要があるためその人選はそれなりに苦労するかとは思います。

余談になりますが、監事については、医療法人の場合、顧問税理士が就任できないのに対し、一般社団法人の場合は規制がないため、そこは信頼関係のある監査のプロに監事就任を依頼できることになります。
若しくは監事は理事ではないため、3分の1要件には関係しません。
監事に親族を置いて法人の経営・財産状況を監視する機能となってもらう選択肢もあります。

6.一般社団法人の課税関係

クリニック開設仕様の場合、非営利型の法人となりますが、医療法人同様に法人税法上は全所得課税が適用されます。
また、保険診療の事業税の非課税も医療法人同様の扱いになります。
クリニックを廃止した場合は事業税の非課税がなくなり、法人税法上の取り扱いは変わりません。

また、新法の医療法人同様、持ち分がないため、交際費の損金算入限度額の資本金の判定も新法の医療法人同様です。

7.最後に

一般社団法人でのクリニック開設は、個人開業の自由度と医療法人の組織経営のちょうどいいとこ取りができるのが選ばれる理由だと思っています。

志を同じくする医師が共同でクリニックを開設する場合や、代表者である医師の死亡によるリスク回避、後継者が医師以外の道を選ぶ場合や自身が医師を引退したあとの事業展開などでの活用を想定しています。

そのため、弊社では、営利目的で医師歯科医師以外がクリニックを経営することの推奨はもちろん、医師歯科医師以外の方の一般社団法人でのクリニック開設のご支援をすることはございませんのでご了承ください。
お問い合わせやご相談も医師歯科医師(そのご家族)に限定させていただいています。

現状では未熟なスキームであるためその制度をよく理解し、リスクを承知した上での運営が望ましいと思っております。

一般社団法人でのクリニック開設は、株式会社の柔軟性と医療法人の公共性の両方の特徴を持ち、制約が少なく期間の短縮・手続きも簡略というメリットがある反面、各種行政手続き・非営利型法人としての運営方法、法改正への対応については一定の知識やスキルが必要です。
全てに柔軟に対応できる専門家を顧問に選ぶことをお勧めします。