Blog

記事・ブログ

最初から医療法人でクリニックを開業するには

2021.07.12
最初から医療法人でクリニックを開業するには

1. 最初から医療法人でクリニックを開業する

クリニックの開業(開設)方法は大きく分けて、

① 個人での開業
② 医療法人での開業
③ 一般社団法人での開業

の3種類があります。

今回は②の医療法人での開業について、最初から医療法人でクリニックを開業するにはどうすればいいのか解説していきます。

2. 医療法人の設立の流れと注意点

医療法人の設立の流れは、

本店(クリニックの所在地)を管轄する都道府県に設立認可の申請→審査→認可

という流れになります。

まず申請の段階において都道府県によってルールが異なり、次の2点が最初から医療法人でクリニックを開業できるかの判断基準になります

① 設立認可申請のタイミング

・年2回など設立認可申請のタイミングが決められている場合が多い

→好きなタイミングで申請できないので、開業スケジュールを申請タイミングに合わせる必要がある。

② 実績要件の有無

・都道府県によっては開業実績1年以上など、そもそも最初から医療法人でクリニックを開業できない場合もある

→都道府県によって異なるので必ず事前に確認する必要がある。

3. 最初から医療法人でクリニックを開業する場合のスケジュール

簡単に説明すると、通常の個人開業のスケジュールに「医療法人の設立」が入るだけです。

では実際の流れを説明していきます。

物件・内装・医療機器の選定→融資申し込み→融資決定・その他人材採用等開業準備→医療法人の設立認可申請→認可→法務局の登記→保健所の開設許可申請→保健所の立ち入り→クリニックオープン→保健所の開設届

が、ざっくりとですがスケジュールになります。

下線の部分が最初から医療法人でクリニックを開業する場合に追加される手続きです。

医療法人の設立に係わる部分を除けば通常の開業スケジュールなので、そちらについては皆さんなんとなくどのくらいの期間になるかがイメージできるかと思います。

ではこの下線の部分はどのくらいの期間になるでしょうか。

例えば東京都の標準スケジュールだと、3月に申請した場合、医療法人でのクリニックオープンは自由診療のみであれば早くて9月、保険診療を行う場合は10月か11月が無理ないスケジュールかと思います。

どうでしょう?

物件・内装・医療機器の選定→融資申し込み→融資決定から、更に約6~8ヶ月です。

と、いうことは物件を借りた場合、仮にフリーレントが取れなければ最低で約半年以上無収入で家賃と利息だけを支払い続けるの?と、いうことになりそれは事実です。

ではなぜそうなるのか、次の「4.医療法人の設立認可申請時点で決まっていなければいけないこと」で解説していきます。

4.医療法人の設立認可申請時点で決まっていなければいけないこと

医療法人の設立認可申請で決まっていなければいけないことはざっと並べてみると下記の通りです。

都道府県によって若干異なりますのでそちらはご了承ください。

○医療法人の名称
・同じ都道府県内に同じ名称の医療法人がないか確認が必要

○医療法人の役員
・最低4名 ・理事(理事長含む)3名、監事1名 以上
・役員になれない要件にクリニックと取引のある会社の役員等一定の制限がある

○医療法人の定款内容
・事業年度 ・その他各都道府県のモデル定款に準ずる

○クリニックの賃貸借契約
・保証金、毎月の賃料等の金額、引き渡し日、家賃支払い開始が決まっていること
(仮契約や契約書案でも上記が決まっていれば可、ただしあとで金額や家賃支払い開始が変更になった場合には連動する書類の差し替えが必要)

○クリニックの内装
・平面図が必要
・診察室、待合室などの部屋ごとの名称、㎡数が書かれていること

○内装工事、医療機器等
・見積書の提出が必要

○金銭消費貸借契約書
・金融機関から融資を受けて開業する場合に必要
・融資を受けない場合は、設備投資資金として十分な自己資金が必要

○最低2ヶ月分以上の運転資金
・融資で用意する場合は開業前の時点で融資が実行されることが金銭消費貸借契約書で確認できる

○診療所の概要
・クリニック名称、診療科目、職員構成(医師、看護師、事務員等職種別、常勤又は非常勤の雇用形態別予定人数)、診療日時

○診療所の管理者

以上です。

そして、これをもとに、どんなクリニックを、どのくらいの予算で、その資金調達はどうやって、収支はどのくらいになって、それで投資の回収はどうなっていくのか盛り込んだ「事業計画書」や「予算書」と一緒に提出し都道府県の審査を受けることになります。

あれ?なんか開業計画に似ていますよね?

そうです。

要は金融機関の審査のあと、さらに都道府県が開業計画を審査するようなものです。

また、この事業計画や予算書は開業計画同様、当たり前ですがまだクリニックの実績がない状態でこれだけ患者さんが来て、単価がどのくらい取れるからこれくらいの売上になって、経費と借入の返済はこのくらいになるけどこの売上になるから大丈夫です。

ということを、売上についてはできるだけ客観的な根拠を用意し、経費と借入返済については見積もりや家賃・借入返済など契約で決まっているものはその契約額の数字を使って組み立てていきます。

とにかく医療機関に融資をつけたい金融機関の審査に比べると、都道府県は特に最初から医療法人での開業をウェルカムとしているわけではないのでそのハードルは相当高くなります。

申請すれば必ず認可を約束するシステムではないので、そもそもここで並べた事項の一部が用意できない場合は申請自体ができない。用意はできたのでいざ審査には進んだけど、事業計画や予算書の実現根拠が乏しいといった場合は申請の取り下げとなります。

5. 最初から医療法人で開業するメリットをよく考えてみる

前項までで述べた通り、最初から医療法人で開業するには通常の個人開業に比べると時間が長くかかるので、その間に収入がない=開業計画が成功するか分らない状態で豊富な資金を確保し、先に支払いだけが生じる期間を耐える必要があります。

また、「4.医療法人の設立認可申請時点で決まっていなければいけないこと」の通りあくまでも申請→審査→認可のため、必ず最初から医療法人でのクリニック開業が確約されているものでもありません。

医療法人化には個人と法人との税率差、親族への所得分散など節税メリットはもちろんありますが、ただそれだけを目的にチャレンジすることはお勧めしません。

また、医療法人格の売買などは、その医療法人が運営するクリニックの承継を目的とする場合を除き、とにかく法人格だけを買うという行為もトラブルのもとです。

「最初から医療法人で開業できる」という謳い文句に誘われ、よく理解しないまま法人格を買う、新規医療法人設立することだけは絶対に避けていただければと思います。

どうしても医療法人で最初から開業したいと思った場合には、必ず医療法人の設立その他の行政手続き、税務会計の両方の知識を有する専門家に相談してください。

特殊なスキームのときほど一連の流れを把握できて、その後の運営まで一緒に考えてくれるパートナーが必要になります。